ページ 11

超低分散硝子(特殊低分散硝子)材の現状

Posted: 2025年6月12日(木) 18:20
by Abbebe
近年性能向上が目覚ましい小型屈折鏡筒に搭載されていると思われる特殊低分散硝子材について、硝子材製品名とガラスコードを各硝子メーカーカタログから抽出。
アッベ数(νd)ランク毎に一覧表にしてみました。

硝子メーカーはOHARA、HOYA、SUMITA、光ガラス(Nikon傘下)の国内メーカー4社とSCHOTT(独)、CDGM(中国)の計6社です。
蛍石(人工結晶)は3社が生産していますが硝子ではなくて結晶であって単一特性なので一括りにしています。

ガラスコードは、基本特性であるnd(d線屈折率)の小数点以下3桁とνd(アッベ数)小数点以下1桁までの3桁を並べて6桁数値としたものであり、メーカー、製品名が違ってもガラスコードが同一数値であれば少なくとも基本特性においては同等特性と言えます。

アッベ数:νd=(nd-1)/(nF-nC)は、値が大きい程色分散が小さく色収差補正に有利であることを示します。
(式から解かるように実はアッベ数にはg線に関する情報は含まれていないのでg線について補正等の操作する為にはまた別の特性データを使用する必要があります)
アッベ数81ランクをEDガラス、95ランクをSDガラスと呼ぶのが通常傾向であことは間違い無いと思いますが(蛍石(フローライト)も95です)、望遠鏡メーカー、カメラレンズメーカー等、機材メーカーは自由勝手にED、SD或いはそれ以外の名称を付けていたりすることも有り、実際のところ使用されている硝子材のアッベ数ランクを特定するのは難い状況にあると言えます。
但し、使用硝子材を公表している機材メーカーも有り、その場合は今回のこの一覧表でアッベ数(νd)ランクが明確になります。

いずれにしても、近年これらのアッベ数の値が大きくなる方向の特殊低分散硝子材が開発されて使用されるようになったことが小型屈折望遠鏡光学系等の性能を飛躍的に向上させた要因であることは間違い無いと思います。

吉田正太郎氏の本には蛍石(フローライト)よりももっと色分散の小さい結晶として、フッ化リチウム(νd=97.3、ガラスコード:392973)が挙げられていますが、今回の一覧表で解るように現在既にフッ化リチウムを超える硝子は開発済で販売されている訳です。

また、近年小型屈折望遠鏡機材の主流が中国製品に置き変わっていっても硝子材だけは日本製が安泰と思っていたのも今となってはもう過去の話になって来ているようで、急速に中国CDGM製等に置き変わりつつあるようです。

Re: 超低分散硝子(特殊低分散硝子)材の現状

Posted: 2025年6月13日(金) 18:26
by 還暦α
Abbebe様、皆様こんにちは。

原子吸光分光法などを使えば組成分析ができるので現物を手に入れられれば同じガラスを作ることが出来てしまいます。
実際には均質に製造するための条件が色々あると思いますので組成がわかっただけでは作れませんが目標の特性値だけから
始めるよりははるかに速いはずです。
(以前勤めていた会社の隣の建屋で光学ガラスの熔解をしており、酸素雰囲気で融かすとか金や白金の坩堝を使うとか
硝種によって色々な製造条件があると聞きました。)

マネされないようにするには組成を明示して特許で押さえるしかないわけです。
(組成分析ができるので特許侵害を立証するのは容易と思われます。)
特許は「諸刃の剣」的なところがあり、光学ガラスの場合は組成を開示することになるわけで、特許に近い組成で
一部を別の物質で置き換えるなどの方法で特許を回避して同等の性能が出せてしまう可能性があります。

ホタロンK-CaFK95に関しては1987年に発売されているので特許が成立していても既に権利が失われているので
今はどこでも作れるようになっています。(基本は出願から20年で権利消失)
手元にあるHOYAの1992年版光学ガラスカタログにFCD100が載っているのですが、ネットで「HOYA FCD100」で
検索してみたところ2007年以前ではヒットせず、2008年から天体望遠鏡の話でヒットしたので住田光学の特許に
抵触していたのかもしれません。
カメラ用レンズなどの場合はレンズデータが公開されているわけではないので検索に出てこなかっただけの
可能性もあります。

K-FIR98UV、K-FIR100UVの相当品が無いのは住田光学の特許があるからだと思われます。
(K-FIR100UVは2018年出願で権利化されています。)