天竺への旅 (---25cm対物レンズ制作の思い出---)

楽しみ方は無限大、アイデア全開
アバター
木村
記事: 115
登録日時: 2025年2月06日(木) 11:24

Re: 天竺への旅 (---25cm対物レンズ制作の思い出---)

投稿記事 by 木村 »

 しょげるhは,暫くお休みしてもらって,生まれて初めて対物レンズを研磨する私はニコニコでした.共擦りのT1は裏も磨かれてますから,研磨砂が広がったり偏ったりのパターンを眺めながらの単調ではありますが,神経を研ぎ澄まさないとならない仕事は楽しいです.

さて,再研磨中に,この25cmアクロをどうやって設計したのかを簡単に説明しましょう.原型は「望遠鏡光学・屈折編」(吉田正太郎著)の173頁から書いてあるフランホーフェル型対物レンズです.目標にするFを決めてから,単に比例でサイズと焦点距離を変えて形にします.性能重視のF15にすれば,球面収差もコマ収差も測定限界以下になるところですが,さすがに長大なので,汎用を狙ってF12にしてました.r2=r3にして,それぞれのレンズの間隔を調整して収差補正をするアイディアは,P172のFig. 5.7のリトロー型のレンズ(ヤーキースの)から思いつきました.

リトロー型には思い入れがあって,大体,昔の4cm fl800mmのアクロマートレンズはリトロー型でした.原型のF19に対してF20は長くなっているだけコマが減り,F15のフランホーファー型と性能差は極少ない.むしろ写真に使うg線に関しては優秀です.

ヤーキース天文台を作るとき,誰かががやったらとリトロー型を推薦したようですが,長いのが最大の欠点で,そこをどう説得したのか興味が湧きますね.

子供の頃使っていた4cmのアクロマートは,中学の理科室から廃棄処分した天体望遠鏡のでした.それ以前に,小遣いを貯めて買った600円の青板1枚ガラスのメニスカス対物レンズのキットで作った望遠鏡より,格段に良く見えたのを今でも思い出します.出来た望遠鏡のテストは,500mほど離れた酒屋さんの夜の看板でした.「清酒○○」と書いた看板で見えっぷりを確かめていました.

リトロー型はガラス材質を決めてしまうと,補正できるのは色収差だけで,球面収差やコマ収差は出たとこ勝負で変えられません.だけど,大抵は実用になる程度の収差に抑えられた設計になってしまうところが不思議です.
アバター
木村
記事: 115
登録日時: 2025年2月06日(木) 11:24

Re: 天竺への旅 (---25cm対物レンズ制作の思い出---)

投稿記事 by 木村 »

コーティングのこと

 砂に戻ってしまったr1同士の研磨は、ちと置いておきます。
制作中にコーティングをどうするかの話しが出ました。対物レンズを買ってくる場合は、大抵はコーティングしてあります。極々古いアクロマートだとノーティングのないものもありますが、普通、最低第3面くらいはコートしてあります。
 しかし、手磨きの対物をコートするかどうかになると、かなりの難問です。自分自身は、学生時代にフッ化マグネシュウムを使う普通の青紫色のコーティングを学生実験でやったことがあります。課題は、普通にコーティングしてみなさい、と言うだけだったのですが、へそ曲がりの私は干渉フィルターを作ってみたいと言い出して、ガラス板にアルミを蒸着して、さらに膜厚を測定しながらMgF2を蒸着し、残っていたアルミを再度蒸着してサンドイッチにすると言うものです。蒸着中の(透明な)MgF2の厚さを測るってのは、ちょいと自慢の工夫がありましたので、それを使えば狙った厚さにMgF2を蒸着するのは簡単です。
 しかし、やるとなると真空ポンプに油拡散ポンプやら何やら、かなりの大事になります。特に油拡散ポンプには液体窒素が必要になるので(水冷式でも結構行けるんだそうですけど)、バケツみたいな大きさのジュワー瓶も必要になります。
 結局、何処か蒸着をやってる会社に頼んでみようと言うことになり、あちこちの会社に電話してみましたが、なかなか名乗りを上げてくれる会社は有りませんでした。今、やってるかどうか分かりませんが、シグマ光機という会社が、やっても良いと返事をくれました。でも、低温のままコートすると、指で簡単にコートが取れてしまいますので、「ハードコート」にしないとなりません。この時、ガラス材を加熱して高温にしてから蒸着をしますが、25cmという大口径のレンズとなると「その大きさだと、加熱は大丈夫だけど、冷却中に割れてしまうことがあり、その時の保証はできない」と言われました。さらに見積もりは、となると「研究用の一品物扱いだし、冷却に3日はかけないと心配だし、その間は釜を占有してしまうので50万くらい出してくれないと会社としてはねぇ・・・」と言われました。
 はぁ~・・・・電話では、学生時代にやった干渉フィルターの制作の思い出話で盛り上がった後での友達値段で50万と言われては、もう諦めるしか有りませんでした。

 それから、BK7とF2の間にサラダ油を入れて、この2面だけを無反射にすることも考えましたが、さすがに長期間サラダ油が漏れないように密閉するのが難しそうだし、結局、全て諦めました。
返信する